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4.3 エネルギー変換

4.3.1 概要
自然界でのエネルギーは化学エネルギーをはじめ光、熱、電気等の種々のエネルギー形態として存在する。人類はこれまでに石油、石炭等の燃焼によりタービンを回転させることで、電気エネルギーを得て工業や日常生活への利用を行っており、エネルギー変換技術は人類の活動に欠かせないものとなっている。しかし、その変換効率は火力発電では燃料の持つ化学エネルギーの約40パーセント程度にすぎず、そのほとんどが熱として放出されておりエネルギーが充分に利用されていない。
これに対し、生体内では生命活動を維持するために極めて高効率でエネルギー変換が行われている。しかもそれらのエネルギー変換は常温常圧で行われているため、これらの技術を人類が模倣することができれば、その波及効果は計り知れないものがある。
以下に、生体内での興味深いエネルギー変換技術の例について述べる。

 

4.3.2 鞭毛モーター
(1) 生命システムの概要
バクテリアの運動器官である鞭毛は基本的には菌体外にあり、図4−16に示すように、スクリューの機能を持つ鞭毛線維、モーター機能を持つ菌体膜に埋め込まれた基部体、およびその間をつなぐフックの三つの成分から成り立っている(寳谷,1991)。
この鞭毛モーターの回転する機構は、生物界の一般的なエネルギー源であるATPを使わず、水素イオン(プロトン)の流れを利用していることが明らかとなっている。水素イオンがバクテリアの外から鞭毛モーターのモットコンプレックスを通して、バクテリア内に入り込む際、プロトンの通過が鞭毛モーターの回転運動に変換されると考えられている。
この場合、一般のモーターのようにマイナスの電気を持つ電子の流れ、電流によって駆動されているのではなく、逆にプラスの電気を持った水素イオン、すなわちプロトンの流れによって動かされている。また、一般に生体内でのエネルギー変換はATPや類似の高エネルギーリン化合物をエネルギー源としているが、鞭毛モーターではATPではなくプロトンの電気化学ポテンシャル差をエネルギー源としており、他の運動器官とは全く異なっていることが特徴である。

 

 

 

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